歳月





読み:さいげつ
主な登場人物:江藤新平
時代:幕末
巻数:上下

卓抜した論理と事務能力で、明治維新の激動期を司法卿として敏腕をふるいながら非業の死をとげた江藤新平を描く

内容
(上)肥前佐賀藩の小吏の家に生まれた江藤新平。子供の頃から一種の狂気を持った人物だった。慶応3年、大政奉還を知るや「乱世こそ自分の待ちのぞんでいたときである」と、藩の国政への参画と自分の栄達をかけて、藩の外交を担い、京へのぼった。そして、卓抜な論理と事務能力で頭角を現していった。が……。
(下)明治維新の激動期を司法卿として敏腕をふるいながらも、明治6年、征韓論争で反対派の大久保利通、岩倉具視らと対立。敗れて下野した江藤新平は佐賀の地から、明治中央政府への反乱を企てたが……。34歳から41歳までのわずか7年間に、栄光と転落を味わった「ふしぎ」な生涯を描く傑作歴史長編。

印象に残った一節
・「男子はすべからく巌頭に悍馬を立てるべきだ」
江藤はこのことばが生涯すきであったらしい。男子たる者は気の荒い馬に乗り、それを進めて巌頭に立たねばならぬという。断崖からころげ落ちるか、大きく飛躍するか、そのどちらかを賭けるべきだというのである。

・「神仏が、霊験(奇跡)をあらわすのではない。霊験をあらわすものはなにか。時勢である」
という言葉を、江藤新平は好む。「時勢が奇跡をうむ」ということなのである。江藤ほど、生涯、身をもってこの言葉を味わった者はないであろう。

・江藤新平が欲しているのは、権力である。権力をつかまなければ、この世でなにごともできない。たとえば画家が筆を欲するように江藤は権力を欲している。権力という筆があってはじめて。江藤はこの世の中を画布にし、思うままの絵をかけるのである。
(おれはかならずそれをつかむ)
と、江藤はおもった。

・「むしろほろびの道をえらぶ」と大隈はすかさずいった。
「外国からいちいち指図されねばならぬようなら、日本はいさぎよくほろびの道をえらばねばならない。もしここで諸公が戦争に訴えるとおどすなら、われわれ日本人は滅亡を覚悟して銃をとるだろう」

・前参議という、この新国家の代表的人物が船底の沢庵くさい下等室の混雑のなかで身をちぢめているというのはどういうことであろう。察するに、上等室を予約できないほどのあわただしい時間条件のなかで西下を決めたにちがいなかった。佐賀へ帰るという。帰って成算があるというのか。(帰ろうというのは江藤のあの明晰な頭脳がきめたのではあるまい。おそらく江藤の性格が江藤にそれをきめさせたのだろう。性格が物事をきめるなど、下の下だ)

ただ佐賀の過激士族が期待しているのは、副島や江藤のその絢爛たる肩書であった。元参議といえば日本における十人内外の巨人のひとりであり、新貴族というべきものであり、旗頭としてかつぎあげるにはこれ以上の豪華さはない。士族たちは江藤に殉ずるために挙兵をしようというのではなく、挙兵のために江藤を利用しようとした。

・江藤は、天成の扇動家かもしれない。扇動には論理よりも詩が必要だが、この論理家の江藤の口からすらすらとそれが出た。みな湧きたってしまった。

・江藤は、世の中をうごかすものは少数の賢者より多数の、かれのいう馬鹿であるという政治の原理を理解しにくくできており、さらにはかれのいう、馬鹿を理解することなしに人間というものを理解することはできないということも、江藤はそのあたりだけが空白になっているほどに理解する能力をもっていなかった。

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  1. 三匹の迷える羊たち より:

    読書感想「歳月」
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    【評価】★★★

  2. 地味な女子の読書日記 より:

    司馬遼太郎:歳月
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    卓抜した論理と事務能力で、明治維新の激動期を……

  3. おひょう君の読書感想文 より:

    「歳月」司馬遼太郎
    幕末、明治維新を経て、明治の新政府が誕生するその時代、多くの才能ある人間が活躍しました。
    江藤新平は法律の土台を作った人で、刑法はドイツ、民法はフランスを手本……

  4. <徳島早苗の間> ・・・ちょっとだけ〝キタ〟かな~?? より:

    「歳月」読了。
    江藤新平というと「佐賀ノ乱」の首謀者で、自分が作った司法制度によって裁かれた人、というぐらいの認識しか持っていなかったが(高校の時図書館で借りて……

  5. シンプルコム社長のブログ より:

    「歳月」司馬遼太郎
    幕末、明治維新を経て、明治の新政府が誕生するその時代、多くの才能ある人間が活躍し……

"歳月"のレビュー

(評価:5)
政治の難しさを実感した一冊
レビュアー: kazu
2007-05-25
司馬先生の作品の大ファンで、戦国もの、幕末維新、エッセイと幅広く読ませていただいてますが、維新後の作品では、政治とは何なのかを考えさせられることが多いです。


正義感や観念的に良いと思うことも、政治の世界ではその論を有力な人の後押しにつなげないと結果が出ないという厳しさ、力の均衡のことが具体的に感じられました。
特に江藤新平は卓越した司法実務の才があったにもかかわらず、政治に無頓着であったため、(性格的なものもあるように思いますが)あの結末となったんだなぁと、政治の難しさを知りました。


現在のように国会が出来、与党野党がはっきりしている今とは違い、征韓論争の時代、どちらに転ぶか分からなかったですし、ごく僅かな差で論戦で勝利した大久保派の勝利の一番の要因はやはり周旋、政治の駆け引きの差にあったんだろうなぁと感じます。
あの時の参議の一人ひとりの情熱や行動力、志の強さを現代のわれわれがもっと見習わなくてはならないところだと感じてしまいます。
(評価:5)
「利より論」竜馬と対照的な生き方
レビュアー: shiba-ryo.com
2005-10-28
佐賀の下級藩士の家に生まれ、日々の生活にも事欠くほどの貧窮に苦しんだ江藤新平。
その江藤が幕末の激変に乗じて一気に頭角をあらわして新政府の極官"参議"まで上り詰める様子から、征韓論争での敗北から下野、佐賀の乱まで。。。江藤の生涯を鋭く、鮮やかに描いています。

江藤の特徴は、明晰すぎる頭脳から繰り出される論理と実務能力。これを武器に新政府の礎を築きますが、義経ばりの政治的無能が災いし、最期は非業の死を遂げてしまいます。。

また、江藤の信条は「利より論」。法・正義・論理を何よりも尊いものとし、政治や感情といった人間の"なま"な部分を考慮する能力を欠いています。この生き方、"竜馬がゆく"で描かれている「論より利」の生き方と全くの正反対です。江藤と竜馬。この対照的な二人の生き方を見ていると、「論理とは」「政治とは」「人間とは」、、、などなど、いろいろなことを考えさせられます。


本作は、非常に読み応えがありました。
江藤新平という人物とその生涯を知ることはもちろん、肥前藩の幕末における立場が詳しく描かれているので、薩長を中心とした作品とはまた違った味わいになっています。幕末から明治の激動が好きな方には必読の一冊です。


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