アメリカ素描





読み:あめりかそびょう
ジャンル:紀行文

内容
普遍性があって便利で快適なものを生み出すのが文明であるとすれば、いまの地球上にはアメリカ以外にそういうモノやコト、もしくは思想を生みつづける地域はないのではないか。―初めてこの地を旅した著者が、普遍的で合理的な「文明」と、むしろ不合理な、特定の集団(たとえば民族)でのみ通用する「文化」を見分ける独自の透徹した視点から、巨大な人工国家の全体像に迫る。

印象に残った一節
・高度の独裁国家は、犯罪がすくない。警察を強化し、また超法的な行動力をもつ軍隊を背後にひかえさせ、さらには国内治安用の密偵網を張り、それだけでなく国民に相互監視の義務を押しつければ、犯罪はすくなくなる。しかしアメリカ合衆国を成立させている唯一のものである自由は死ぬ。
自由が死ねば経済は壊滅する。かつこの人工国家へのひとびとの参加意欲は消滅し、従ってアメリカ社会は崩壊してしまう。アメリカにおける自由は、この国の活力減であり、人類の希望の灯でありながら、しかし副作用として血まみれの犯罪をひきずって進みつづけているのである。

・教授は、いう。
「アメリカ人の場合、自己を表現するということを、母親や学校から徹底的に教えられます。まず第一に、自己を表現しなさい。第二は、自己が正しいと思っていることをやりなさい。そして自己表現はアーティキュレイト(明瞭)に、クリア(明晰)にやりなさい。また、相手に訴えるときはパーフェクト(完璧)にやりなさい、ということを教えつづけます。そのため、相手の心を察する感覚が弱くなっているのです」
歴世、日本の対米外交はこの苦痛に耐えてきた。日本人たちは、この相手との議論の場で負けると、ついにいろいろ愚にもつかぬ(とアメリカ人は思う)事実・事情群をとりだしてきて、
「あとは察してくれ」
と微笑する。しかし相手の多くは察するという能力を後天的にもっていないのである。

・くりかえしのべてきたように、多くの国々にあっては古代以来の文化が累積し、近代に入ってやっとその上に法が載るようになった。法によって日本やフランスや韓国やデンマークなどができたのではなく、もともとそこに人間の組織があって、近代に入ったがために近代の法で再秩序づけされたにすぎない。
アメリカだけが逆だった。広大な空間を法という網でおおい、つぎつぎに入ってくる移民に宣誓させ、その法に従わせるということで、国家ができた。

・なぜ弁護士になろうと思ったのですか、ときくと、クラーク氏は、
「アメリカは、法が主人ですから」
と答えた。さらに、
「アメリカの政府は、大統領という人間が主人ではなく、法が主人ですから」
だからやりがいがある、といった。

・あたりまえのことをいうようだが、世界の通貨はドルを基準にして価値がきめられている。ドルが世界でただ一つの国際通貨であることは、小学生でも知っている。アメリカとはなにかということをひとことでいうなら、このことに尽きるのではないか。

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"アメリカ素描"のレビュー

(評価:5)
アメリカ社会の本質を描く
レビュアー: shiba-ryo.com
2006-01-14
司馬遼太郎が実際にアメリカを訪問して描いた紀行文。20世紀以降世界の王者として君臨しつづけるアメリカを、司馬遼太郎がその豊かな知識と感性で、アメリカ国家のルーツやその強さの源に迫ります。
第一部カリフォルニア編、第二部ニューヨーク編の二部で構成されており、連載時期は昭和六十年だが、アメリカ社会の本質を描いているため古さはほとんど感じません。


日本とアメリカは同盟国として既に50年以上の交流がありますが、互いに相手の国家や文化の本質を理解せずに付き合いを続けている感があります。そうした状況を打開するためにも、日本の文化・民族・国家を知り尽くした司馬遼太郎が描いた本書には、日本人のアメリカ理解を大いに深めるために非常に有益なものであると思います。

相手と付き合うにはまず相手をよく知ることが大事。現代に生きる社会人として、アメリカ考察の初歩としてぜひ読んでおきたい一冊です。


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